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岡山地方裁判所 昭和39年(行ウ)1号 判決 1965年3月25日

原告 小橋工業株式会社

被告 児島税務署長

訴訟代理人 川本権祐 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三七年六月二七日原告に対してなした昭和三六年度(昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年八月三一日まで)法人税の課税標準である所得を金一、〇五四万三、〇〇〇円とする更正決定につき、金七七四万三、〇〇〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張並びに答弁

一、原告の請求原因

1  原告は農機具の製造販売を業とする株式会社であるが、昭和三六年度(昭和三五年一〇月三一日から昭和三六年八月三一日まで以下同じ)の法人税について所得金額を金六三一万八〇〇円、この税額を金二四一万六七〇円とする確定申告をした。

2  ところが被告は昭和三七年六月二七日付決定をもつて、所得金額を金一、〇五四万三、〇〇〇円、この税額を金三八七万八、五七〇円とする更正決定をし、右は同年六月二八日原告に到達した。

3  右更生の理由は、原告所有の訴外富士商事株式会社(以下単に「富士商事」という)の株式四〇〇株(以下「本件株式」という。一株の額面金一、〇〇〇円)を額面金額で原告会社役員に譲渡しているので、一株の時価金八、〇〇〇円との差額金二八〇万円を所得に加算すべきである。とする外四点の加算と二点の減算をし、差引増加所得金四二三万二、一八七円とすべきである。というにある。

4  原告は、右更正決定に対し、原告所有の本件株式を原告会社代表取締役小橋照久、専務取締役小橋正志に譲渡するについて、取締役会の承認を欠き無効であるとの理由で、昭和三七年七月一九日再調査の請求をした。ところが被告は同年九月五日右再調査請求を棄却したので、同年一〇月三日広島国税局に対審査請求をしたが、昭和三九年一月一七日付で右審査請求は棄却され、原告は同日右通知を受領した。

5  しかしながら被告のいう株式譲渡行為(昭和三六年二月二二日代表取締役小橋照久と専務取締役小橋正志に各二〇〇株譲渡した行為である。)は、取締役会の承認を欠き無効であり、仮に有効であるとしても被告のいう株式時価は正当でない。

6  右の次第で、被告が昭和三七年六月二七日原告に対してなした昭和三六年度法人税の課税標準である所得を金一、〇五四万三、〇〇〇円とする更正決定は、金七七四万三、〇〇〇円を超える部分は違法であるからこれが取消しを求める。

二、被告の答弁並びに主張

1  答弁

(一) 原告主張の請求原因第1ないし第4項記載事実は認める。

(二) 同第5項記載事実のうち、括弧内の事実は認めるが、その余の事実は争う。

2  主張

被告と本件株式譲渡に関する措置は以下の次第で正当である。

(一) 本件株式の譲渡については、原告会社取締役会の承認があつたと認むべきである。

原告会社はその株主を代表取締役小橋照久とその親族によつて独占された典型的な同族会社である。取締役会の構成も同様であつて、次のとおりである。

代表取締役 小橋照久

取締役 小橋正志(照久の子)

同   小橋佐夜子(照久の妻)

同   小橋千鶴(正志の妻)

同   松浦喜一市(照久の親族)

従つて取締役会も通常の日常生活において随時開き得るものである。本件株式の譲渡についても、その事前又は事後において取締役会の承認がなされたものである。即ち、原告において、本件株式の譲渡後である昭和三六年一〇月三一日に定時株主総会を開催し、その株主総会において、昭和三六年度の計算書類(商法第二八一条による。右計算書類には、本件株式の譲渡に関する事実が記載されている。)が提出され、その承認がなされていることからも明らかである。

(二) 本件株式の譲渡時の時価相当額は少くとも一株当り金八、〇〇〇円である。

本件株式を発行した富士商事は、株式会社藤井製作所(以下「藤井製作所」という)の所謂「子会社」であり本件株式の譲渡は(昭和三六年二月二二日)には既に藤井製作所に吸収合併になることが確定していた。即ち、両会社はそれぞれ昭和三五年一二月五日取締役会の合併決議がなされ、同年一二月一〇日合併契約を締結し、昭和三六年二月二五日には株主総会による合併契約書の承認がなされ、その合併契約書によれば、合併時期は同年六月一日(その日に新株交付)、合併に際しての富士商事の株主に対する新株の割当は、富士商事株式に一に対し新株(藤井製作所株式)二〇の割合であつた(藤井製作所株式額面は金五〇円、富士商事のそれは金一、〇〇〇円であるから所謂対等合併にあたる。)。

右の事情は、原告会社の取締役らは十分承知していた筈である。従つて、富士商事株式については、前記合併契約締結以降、藤井製作所の新株交付までの間においては、藤井製作所の株式の時価に応じて評価取引されるのが取引界の実際である。

ところで、本件株式の譲渡時点における藤井製作所の株式の時価は、一株当り金八〇〇円であつたが、合併期日には新株一株当り金四〇〇円となつた。従つて、本件株式の譲渡時における時価は、右の金八〇〇円を基準に計算するのが相当であるといえるが、被告としては、評価額の確実を期する見地から新株の時価金四〇〇円を基準にして本件株式の譲渡時における時価相当額を金三二〇万円と認定したのであつて、それは原告に有利でこそあれ過大な評価であるとのそしりをうけるいわれはない。

(三) 本件株式四〇〇株の譲渡価格とは時価相当額との差額金二八〇万円は、原告の益金に計上すべきものである。即ち、

法人が、その所有する資産を処分した場合において、当該処分価格がその帳簿価格を超える場合は、その差額相当額を法人の益金に算入すべきことは疑いがなく、又現実の処分価格が帳簿価格と同額ないしはそれ以下であつても、実質的にみて帳簿価格以上の経済的利益の実現があつたと認められる場合においては、その評価額と帳簿価額との差額相当分は、これを法人の益金に計上すべきことは理論上当然である。

ところで法人が、その役員に対して資産を譲渡した場合において、その譲渡価額が帳簿価額と同額又はそれを超えている場合であつても、時価相当額に比し不相当である場合においては、当該譲渡価額と時価相当額との差額相当分は、役員に対する賞与(贈与)たるの実質を有するものと認めるのが柑当である。従つて法人は既に実質的に譲渡価額と時価相当額との差額相当分の経済的利益を実現していると言うべきであつて、これを法人の益金に計上すべきであることは言うまでもなく、この点は夙に実務上確定された取扱いになつている。

本件において、原告は時価にして優に金三二〇万円(一株当り金八、〇〇〇円)相当の本件株式を帳簿価額金四〇万円(一株当り金一、〇〇〇円)で代表取締役と専務取締役に各二〇〇株あて譲渡しているのであるから、その差額相当分が原告の益金に計上されるべきはもとより当然である。

三、被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張(一)記載の事実の5ち、原告会社の取締役の氏名・身分関係及び昭和三六年一〇月三一日定時株主総会を開催し、原告会社の計算書類(商法第二八一条による)の承認があつたことは認める。その他の事実は否認する。特に被告主張の原告会社の計算書類に本件株式の譲渡に関する事実が記載されている、との点を争う。

2  同(二)記載の事実のうち、富士商事と藤井製作所が昭和三六年六月合併したことは認める。その他の事実は否認す

る。

富士商事の昭和三五年一月一日から同年一二月三一日までの決算期における同会社の資産は、貸借対照表上左記のとおりである。

資本金  三〇、〇〇〇、〇〇〇円

積立金   五、四四八、〇〇〇円

納税引当金 四、〇五〇、〇三〇円

合計金  三九、四九八、〇三〇円

ところで同会社の発行済株式数は三〇、〇〇〇株であるから、一株の時価は金一、三一六円である。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因第1ないし第4項及び第5項の括孤内の事実は、当事者間に争いがなく、本件株式譲渡に関する取締役会の承認の有無についての被告主張(一)の事実については、原告会社の取締役の氏名・身分関係及び昭和三六年一〇月三一日原告会社において定時株主総会が開催され、商法第二八一条に基く計算書類の承認がなされた、との点につき当事者間に争いがない。

二、成立に(第一号証関係は原本の存在を併せて)争いのない乙第一号証の四・五、同第四・五号証に証人石田金之助の証言を綜合すると、

1  原告から被告に提出された昭和三六年六月三〇日児島税務署受付の法人税額中間申告書(乙第四号証)添付の第一期中間決算報告書の貸借対照表(昭和三六年四月三〇日現在)資産の部、固定資産欄には有価証券として金九三万円の記載があり、同第一期中間決算附属明細書の有価証券欄には右九三万円の内訳が記載され、それによると富士商事株式として金四〇万円の記載があり、一方同じく原告から被告に提出された昭和三六年一〇月三一日付の法人税額確定申告書(乙第五号証)添付の第一期決算報告書の貸借対照表(同年八月三一日現在)資産の部、固定資産欄には有価証券として金五五万円の記載があり、同第一期決算附属明細書の有価証券欄には、右金五五万円の内訳が記載され、それによると富士商事株式の記載はないこと、

2  右確定申告書の第一期決算報告書は、原告会社の全取締役及び監査役の承認がなされていること、

3  本件株式各二〇〇株あて譲受けた原告会社代表取締役小橋照久・専務取締役小橋正志は、いずれも昭和三六年五月三〇日付で富士商事に対し名義書換請求書を提出したこと、

が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実に、前記争いない事実を合せ考えると、本件株式譲渡につき原告会社取締役会の承認があつたものと認めるべきである。

三、原告は、本件株式譲渡は取締役会の承認を欠き無効であると主張し、証人松浦喜市の証言により成立の真正を認め得る甲第一、二号証には、原告の主張に副う記載があり、同証人の証言も亦これを肯定するものであるが、右甲第一、二号証はいずれも昭和三七年五月一七日作成の原告会社取締役会議事録で、その内容は本件株式譲渡行為を前提とする不承認決議であるところ、右は前掲乙第一号証の四・五、第四・五号証により認定したところの、適式になされた本件株式譲渡を一年余も後に否定しようとし、その形式を整えるためなされた決議に過ぎないと認めるのが相当である。従つて原告のこの点の主張は採用し得ない。

四、次に本件株式の評価額について判断する。

1  富士商事と藤井製作所が昭和三六年六月一日合併したことは当事者間に争いがない。

2  証人石田金之助の証言により成立の真正(第一号証関係については原本の存在を併せて)が認められる乙第一号証の一ないし三、乙第二・三号証に証人田中伊佐保の証言を綜合すると、

(一)  昭和三五年一二月一〇日作成された合併契約書には、藤井製作所株式は一株の額面が金五〇円であり、富士商事株式は一株の額面が金一、〇〇〇円であるので、前者二〇株に対し後者一株の割合で新株を発行することに定められていること、

(二)  富士商事は昭和三五年一二月五日取締役会を開き、藤井製作所との合併を決議し、右(一)の合併契約書記載の合併条件については、昭和三六年二月二五日株主総会で可決されたこと、

(三)  昭和三六年六月一日現在の藤井製作所の株式一株(額面金五〇円)は、東京店頭株としての取引価格が一株金三九〇円であり、合併による新株は一株金四〇〇円であつたこと、

が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によると、富士商事の株式一株の時価は昭和三六年六月一日現在金八、〇〇〇円(藤井製作所の新株一株額面金五〇円の取引額価が金四〇〇円であるからその割合による)とみるのが相当である。

原告は、「富士商事の資産は金三九、四九八、〇三〇円(内訳、資本金三、〇〇〇万円、積立金五、四四八、〇〇〇円・納税引当金四、〇五〇、〇三〇円)であるから、発行済株式三〇、〇〇〇株で除した金一、三一六円が富士商事株式一株の時価とみるべきである。」旨主張するが、右は取引価格不明の非上場株について時価を算定する一方法としては是認されるべきであるが、本件の場合の如く、一応公知の取引価格ある株式との価格比率が明瞭な場合は、その比率による時価を算定しても何等不当と解することはできない。従つて原告の右主張は採用できない。

五、以上の次第で、被告が昭和三七年六月二七日原告に対してした昭和三六年度法人税の課税標準である所得を金一、〇五四万三、〇〇〇円とする更正決定は正当であり、従つて右について金七七四万三、〇〇〇円を超える部分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないことに帰する。

よつて訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 宍戸清七 矢代利則)

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